劇場版アニメ「イノセンス」の魅力・感想・評価をご紹介!
出典:Amazon.co.jp

「イノセンス」とは、2004年に公開されたアニメ映画で、1995年に公開された映画「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」の続編にあたります。

監督は前回に引き続き押井守で、原作は士郎正宗の描いた漫画です。

今回は、劇場版アニメ「イノセンス」の魅力や感想、評価さらには、無料で動画を視聴する方法をご紹介します。

アニメ「イノセンス」とは?

アニメ「イノセンス」の概要

「イノセンス」は内務省直轄の組織「公安第9課」、通称「攻殻機動隊」の活躍を描いた作品「GHOST IN THE SHELL / 攻殻機動隊」の続編です。

制作会社はProduction I.G, そしてスタジオジブリが協力しています。

前作の主人公草薙素子が行方をくらましてから3年後の時代となります。

主人公は草薙素子のパートナーだった男、バトーが主人公になります。

本作を理解するには、3つのキーワードがあります。

一つは「電脳化」これは脳や神経系にマイクロマシーンを注入して、ネットの情報とアクセスする技術です。 

もう一つは「義体化」、サイボーグ技術を意味しています。

 最後は「ゴースト」これは極めて哲学的な概念で、自分というものの認識、もしくは「自己」決定させる何かです。

アニメ「イノセンス」のあらすじ

内務省直轄の防諜・テロ対策機関「公安9課」に所属の女性捜査官草薙素子が行方をくらましてから3年の月日が経った頃、ロクスソルス社の愛玩用ガイノイド(人間の女性そっくりのアンドロイド)「ハダリ」が突然暴走し、持ち主を惨殺する事件が起きました。

被害者の中に政治家がいたことから、公安第9課が捜査することになり、バトーとトグサが捜査にあたりました。

アニメ「イノセンス」の登場人物

バトー

声優:大塚明夫  

本編の主人公。体の大半が義体化されています。銃の扱いに長け、高い戦闘力を持っていますが、本来の専門は諜報戦です。

かつてのパートナーである素子が行方不明になってから、喪失感を抱えるようになり、それを補うべく犬を飼うようになりました。

トグサ

声優:山寺宏一 

バトーのパートナー。公安第9課では唯一の刑事上がりです。電脳化されている以外はほぼ生身。所帯持ちで娘が一人います。

 

 

荒巻 大輔

(あらまき だいすけ)

声優:大木民夫

公安9課の部長にして、現場の司令塔。トグサ同様完全な生身です。優れた判断力と政治的駆け引きに長けた人物です。

肩書きが「部長」なのは、彼が公安部に所属していたためです。

アニメ「イノセンス」の主題歌

OP:傀儡謡 怨恨みて散る 作曲・演奏・編曲:川井憲次

本作のOPです。女性がコーラスで歌っており、前作同様、東洋的で神秘的な歌声と音楽が印象的です。どこか人形の魂の叫びを歌にしているような歌詞になっています。

ED:Follow Me 歌手:伊藤 君子

曲はロドリーゴ作曲のアランフエス協奏曲第2楽章に歌詞を付けたものです。どこか悲しげでせつないメロディが特徴的です。素子とバトーが何か語りかけているようにも聞こえます。

アニメ「イノセンス」の魅力とは?

魅力①喪失感を抱えた男のハードボイルドなドラマ

前作の主人公が女性であったのに対し、今回は武骨な大男であるバトーが主人公になっています。

物語も前作がポリティカルフィクション(政治闘争劇)であったのに対し、今回の映画はフィルムノワール(サスペンス映画)タッチで語られています。

前作で、バトーのパートナーであった草薙素子が行方不明になってしてしまい、バトーは喪失感に暮れていました。しかし、彼は己の感傷を押し殺すが如く、相棒のトグサとともに淡々と職務を遂行してゆきます。

バトーは脳以外の自分の肉体のほぼすべてを義体にしているということもあり、自身の内面や欲求を表すことはありません。そのため、彼が職務を全うする姿は、男のストイズムを感じます。

その一方、バトーは私生活で犬を飼うようになりました。彼は喪失感を犬で埋めようとしているのです。自宅にいてもバトーは無表情ですが、犬を甲斐甲斐しく世話をしているバトーはどこか穏やかそうです。犬の世話をしているときだけ、バトーは職務も喪失感も忘れることができるのです。

ハードボイルドとは、感傷的な表現を避け、徹底とした客観的な文体で表現する手法を意味しています。本編の見所の一つは、己の感傷を押し殺して職務を遂行するバトーのハードボイルドなドラマです。

魅力②淡い陽光が美しい映像美

前作の「攻殻機動隊」同様、「イノセンス」の監督は押井守です。前作も退廃美が漂う美しい都市描写が表現されていましたが、1995年に放映された「攻殻機動隊」に対し「イノセンス」は2004年に放映されたので、CGの技術もより高くなっているため、映像はより美しく仕上がっています。

例えば 冒頭で、主人公のバトーが、路地裏で暴走したガイノイドを破壊する場面が出てきます。薄暗い路地裏に潜んでいるガイノイドは人形ということもあって、不気味さと美しさを両方表現されています。

この時、バトーとガイノイドのちょっとした交戦が始まりますが、ガイノイドのしなやかな動きに対し、バトーは重厚でどっしりとした動きを描写しています。このことで、ガイノイドの妖しい雰囲気とバトーの重苦しい雰囲気の両方を表現しているのです。

物語全体としては、淡いオレンジ色で彩られた陽光に照らされた都市描写が見所です。どこかターナー(19世紀のイギリスの画家)の絵画のような陰影のある光景が表現されています。

また、前作が近代的なビルが多かったのに対し、「イノセンス」に登場する建物は、「ゴシック風建築」という、西洋にある鋭角なデザインの建造物です。この建物が、オレンジの陽光の影になったとき、繊細で美しいシルエットとして表れるのです。

SFでありながら、神秘的で美しい光景を表現しているのがこのアニメの特徴です。

魅力③人形、犬、メカ、押井守監督のこだわり。

映画「イノセンス」では、人形、犬、メカに焦点を絞って表現されています。これらは監督である押井守のこだわりが反映されいます。

理論派で知られる押井守は、機能的なメカを表現したがる人で知られ、そのため「イノセンス」で出てくる機械のマニピュレーターや飛行機械の翼の動きはとても繊細に表現されています。またバトーの銃の持ち方が本物の軍隊や警察の構え方になっているなど、武器の使い方も徹底的にこだわっています。

押井守は、ニューヨークの美術館に行った時に見た、「ハンス・ベルメールの人形」に大変な感銘を受けて、「イノセンス」で人形の美しさを表現することにしました。

本編で出てくる人形は、球体関節によって、しなやかな動きのできる人形です。人形はゴーストがないため、どこか不気味に描写されており、サイボーグであるバトーとは似て非なる存在として描写されています。

押井守は犬好きであることでも有名で、「イノセンス」でもバトーが犬を飼っていますが、この犬は押井守が飼っている犬がモデルといわれています。

ちなみにこの犬は「バセットハウンド」という犬種で、本編でも言われていますが、実は世話をするのに大変な手間のかかる犬種で、本当なら独身者には飼うのに向かない犬なのだそうです。

裏を返せば、バトーはわざと手間のかかる犬を飼うことで、少しでも素子のいない喪失感を埋めたかったのではないかという見方もできます。

アニメ「イノセンス」の感想(ネタバレあり)

2004年代は名作アニメ映画が数多く放映されていました。中でも注目されていたのは、大友克洋の「スチームボーイ」、ピクサーの「Mr.インクレティブル」、そして押井守の「イノセンス」でした。

なかでも「イノセンス」は一番文芸色が強く、あまりに大衆に迎合しなかった映画であったので、押井守がニューヨークでスポンサーを募ったとき、そっぽ向かれたという逸話があります。

それでも押井守の手腕は世界的に知れ渡っているので、ディズニーやスタジオジブリが製作に協力してくれたそうです。

しかし、実際に「イノセンス」を見たとき、主人公のバトーのハードボイルドな雰囲気と、ゴシック建築が並んだ都市描写に目を奪われました。

まだ筆者がレイモンド・チャンドラーも、ダシール・ハメットも読む前に「イノセンス」はハードボイルドな世界を教えてくれたのです。

文芸色の強い映画は分かりづらいと言われがちですが、「イノセンス」は初見で映像美を楽しんで、その後もう一度見直すことで、武骨な男の哀愁が漂うドラマを感じ取ることができます。

アニメ「イノセンス」口コミ・評価

アニメ「イノセンス」の口コミ

抽象的で難解という意見が多い反面、映像美に惹かれたという意見も多いようです。一方、本編に出てくるセリフや、ロクスソルス、ハダリ―といったキーワードの元ネタを探す人が多いようです。

難しい反面、一度理解したらどっぷりはまってしまう作品というのが一般の感想のようです。また、バトーのハードボイルドな雰囲気に惚れた人も多いようです。

アニメ「イノセンス」の筆者評価

総合評価:46点/50点
ストーリー
作画
音楽
独自性
メッセージ性

・ストーリー:9点/10点

はっきり言ってかなり難解で、客を選びそうなストーリーですが、一度頭に入ったら、何回でも物語を見ることができるという、重複して楽しめる作品であるのが魅力。

内容が頭に入ってこなければ、バトーのハードボイルドな物語として見てみたほうがいいかもしれせん

・作画:10点/10点

淡いオレンジ色の陽光に反射される、美しいゴシック風建築や、漢文のネオンで彩られた、中華風の街並みなど、CGを使った映像美は一番の見所。

バトーの飼っている犬の愛くるしい仕草や、ガイノイドのしなやかかつ不気味な動きなど、メインキャラクターだけでなく、犬や人形のアクションにも注目してほしい所です。

・音楽:8点/10点

基本的に音楽を楽しむ作品ではありませんので、あまり派手なBGMは流れていません。

しかし、OPに流れる川井憲次作曲の東洋的で神秘的な美しいメロディーは素晴らしい。また、EDに流れる伊藤 君子が歌う「Follow Me」の切なく悲し気な歌は、素子を失ったバトーの心境を表しているようにも、素子がバトーに何かを語りかけているようにも思えます。

・独自性:9点/10点

前作の「攻殻機動隊」以上に、押井守のオリジナル要素を組み込んだ作品に仕上がっています。

高クオリティなCG技術で作られた都市描写に、犬の愛くるしい仕草、銃や飛行機など様々な機械の描写。押井守ならではのこだわりがたくさん詰まっています。

古今東西の文学書から引用されたセリフ回しも魅力の一つ。

・メッセージ性:10点/10点

前作は、義体や電脳化の技術の発展によって、自分自身の存在の証明の難しくなってしまうというテーマが描かれましたが、今作は他人と自分、もしくは自分にとって大事な何かをテーマにしています。

かなり抽象的で難解なテーマになっていますが、パートナーを失ったバトーの喪失感を埋める物語としてみてもいいかもしれません。

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アニメ「イノセンス」のまとめ

「シーザーを理解するためにシーザーである必要はない」この言葉は本編で出てくるセリフですが、本当はドイツの社会学者「マックス・ヴェーバー」が記した「理解社会学のカテゴリー」に記されている言葉です。

その意味は、偉人を理解するのに偉人である必要はないということです。付け加えるのであれば、人を理解するには想像力であり、情報は必要最低限さえあればいいというところでしょうか。

本編では、マックス・ヴェーバーの他に孔子や、リチャード・ドーキンスなど、学者や思想家の言葉が引用されています。

「イノセンス」は、「攻殻機動隊」の続編ですが、本作を見たり理解するのに、必ずしも前作を見る必要はありません。勿論見たければ見ても構いません。「イノセンス」を見るのに必要なのは、理屈でも情報でもなく、感受性と想像力です。

本作でテーマになっているのは「他者」です。主人公のバトーは体が完全に機械になってしまったので、機械や人間、そして人形との境界線があいまいになってきているのです。

そんな彼は犬と接しているときだけ、自分自身を保ち、それと同時に犬を「他者」と認識できるのです。世話の焼けるバセットハウンドを飼っているのもそんなところでしょうか。

自分自身はあるのか?他者をきちんと認識できているのか?それを理解するには情報ではなく想像力と感受性の力なのです。

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